「Winny 等ファイル共有ソフトの利用をやめましょう!」というパンフレット一式が、公権力^^から情報センタに届き、学生諸君に周知徹底よろしくということらしい。発信元は ACCS(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 だが、警察庁総合セキュリティ対策会議 との連携プレーらしい。この 「対策会議」報告書(pdfファイル) によると、著作者の承諾無しに著作物を「送信可能」状態にした時点で、著作権侵害は成立する。この侵害に対して、著作者は、まず民法上の損害賠償と不当利得返還を請求できる。さらに著作者が警察へ告訴すれば、10年以下の懲役もしくは 1000 万円以下の罰金が課されうる。そして、今回 ACCS が強調している点は、Winny などのファイル共有ソフトでダウンロードを行うと、ダウンロードしたファイル(の断片)は、即時に自動的にアップロード可能となる(「送信可能」状態に置かれることになる)ということ。この点は私も講義やゼミで昨年くらいから説明しているけれど、「だから・ファイル共有ソフトの利用はやめましょう」という ACCS の呼びかけは、ちょっと短絡な気もする。
ソフトの利用自体を禁止してしまうと、P2P 技術を活用した正当なファイル共有もできなくなってしまう。たとえば、つとに指摘されていることだが、最近は、著作権者自身が無料で自作の音楽ファイル等を P2P で発信するケースが増える傾向にある。内外の経済学者の分析によると、不法ダウンロードでさえ CD の売上をむしろ増加させるということなんだから、こうした正当な「試聴」はさらに CD の売上増加に寄与するのではないだろうか。日本の場合、とくに音楽 CD は高価で、かつ情報の非対称性が大きい。ファイル共有ソフトの利用禁止は、こうした産業活性化の芽をつみとってしまう可能性もあるように思う。
ちなみに、米国では昨年あたりから P2P を禁止する大学が出現したらしいが、たとえば この記事などは、P2P ソフトの利用を全面禁止した米オハイオ大学を、無知蒙昧、革新への扉を閉ざし、教育機関としての責務を怠るものであると痛烈に批判している。が、(関係者として、当面の)気になる点は、大学当局が禁止しようがしまいが、学生たちの P2P 利用は一向に減る気配がないらしいことである。学生寮が充実していて多くの学生が24時間「学内」で生活する欧米の大学とちがって、日本の学生は大半が自宅下宿からの通学である。ACCS では、ファイル共有状況を調べるプログラムを定期的に実行して各大学の共有ソフト利用状況を検出していく方針らしいが、大学での利用を禁止しても、ISP(インタネットプロバイダ)を抑えないと実効性がないだろう。
ISP 側の対応については、欧州方面の状況も参考になりそう。ひとつだけ記事を拾って読んでみた(Mac World UK 2008/Feb/25)。英国では、ISP(インタネットプロバイダ)と著作権保有者たちとの話し合いが一向に進まないことに業を煮やして、政府が、2009年4月までに不法ダウンロードを禁じる法整備に乗り出すと言い出した。しかし、ISP 側は、顧客ユーザの通信の中身を監視することにあくまで反対している。じっさい、現行の EU および英国の政府通達では、ISP はネットワークを流れる情報の中身には責任を負わなくてよい。フランスでは、しつこい不法ダウンロードユーザの利用を禁止する法規制がもうじき成立する。デンマークでは、裁判所が大手 ISP に対して BitTorrent (ファイル共有の一形態)サイトへのアクセスを禁止せよと命令したが、ISP 側はこの命令を拒否して裁判所と闘うつもりである。