一ヶ月前の大雪の日に行われた「論文指導小会議」。そこで提示された、ある大学院生の論文。そのなかで行われていた、ちょっとおかしな回帰分析について、やはり、指摘しておくべきだろうと思い直した(というか、本業の問題の切り口が見えてこず、手持ち無沙汰の気分転換中にフト思い出したんだけど・・・^^)。なお、本人には罪は無し(誰かがいい加減な「指導」をしているというだけのこと)。
論文では、ある変数 O を、L という変数の過去の値(以下では Lp とする)と、その他いくつかの外生変数の過去の値(以下では Xp とする)に回帰させている。つまり
これを単純最小二乗法(以下では OLS とする)で推計して、その推定結果から、L や X が O に与える効果について「経済理論的な解釈」が試みられている。
しかし明らかに、O と L は同時点でも相互依存関係にあるのだから、本来の関係(構造モデル)は、以下のようである。
この第一式がなぜ最初のような式になるのか不明だが、アプリオリに b1=b2=0 を仮定したのなら、それは論外(たぶんそうだろうと思うけれど)。かりに、推計の結果として L と Op が有意にならなかったのだとしても、このケースでは OLS 推計の結果はバイアスをもつから、そんな検定の結果は信頼できない。 さらに、上の二式を誘導型に直すと(Lの式は省略)
最初の回帰は、b2+b1c2=0 という制約の下で、この誘導型を推定していることにもなる。こちらは OLS 推計できるが、かりに推計の結果から Op が有意でない(b2+b1c2=0)と判断されたものとしても、これだけでは元の構造方程式のパラメータは特定できず、「経済理論的な解釈」はできない。
で、改良策としては、構造モデルのそれぞれの式を操作変数法で推定しなおすことだろう。