私の父は、少年兵としてトラック島に出征し、傷痍軍人となって帰国。戦後しばらくしてからは北浜で働いていた。有望な証券会社員だった(ということだ)が、若気のいたりから、自分の会社を興そうと独立して、失敗したらしい。その後は安月給で小さな会社の経理をしていたが、私が生まれた年に、収入を増やすために港湾労働者に転じた。それから65歳で退職するまでの数十年間は、たたきあげの現場労働者として寡黙に働き続けた。退職後についても、よくぞここまでと唖然とするほど完璧に、質素な生活の中から必要十分の老後資金を蓄えていた。日本を世界二位の大国に押し上げた経済超特急、その原動力となった無名の労働者の多くは、このような真面目一徹の人たちだったのだろうと思う。
その父が、あと数時間後か数日後かには、逝く。数年後か十数年後かには「じゃあな」とお互いに照れ笑いをしながら別れるシーンが来ると、漠然とは想像していたけれど・・・。まったく突然の心肺停止から肉体は蘇生したものの脳機能は回復せず、無言のまま、去って行く。昨晩、父は夢枕に立った。どこかの小さな古いビルの階上から現れて、私を見つけると、階段を中途から飛び降りた。危ない!とヒヤリとした。足を挫いたかなにかしたようだったが、それでも平気な様子を気取り満面の笑みをうかべてこちらに走り寄ってきた。奇蹟がおきることを心のどこかで未だ期待しているけれど、そろそろ送る言葉も準備せねばならない。なぜか一昨日あたりから、「巨人の星」の飛雄馬の名言が浮かんでくる --- おれのとうちゃんは日本一の労働者^^。