エンジニアにもわかるアベノミクス。ボクはこのブログの著者の見解が基本的に正しいと思うけれど、ここでも、「リフレ派」の反論で論点がぼやけてしまっている印象。最初は、エンジニアのなかにもリフレ派の理論を振り回す人がいるのかと興味をもったが、よく見ると、細かい揚げ足取りがちょっと多い気もする。
ここで「リフレ派」が持ち出している「理論」によると、「たまたまインフレ率が上がっても日銀は政策金利を上げない(ブレーキは踏まない)」と約束するだけで、インフレ目標は達成できるそうだ。なぜなら、この日銀のコミットメントによって長期(期待)金利が低下するから、将来収益の(主観的)割引率が下がり企業の(期待)現在価値が高まって・・・ということらしい。しかし(ここでの説明を読むかぎり)、これは、(ちょっと前までの日本のように)長いデフレとゼロ金利のなかで「たまたまインフレ率が上がる」(主観)確率がゼロの状況では成りたたない話だろう。景気がよくなる見通しがない状況で「もし景気がよくなってもすぐに金利はあげません」と日銀が言ったとして、それだけで人々の期待が高まるというなら、それは相当におかしな話だ。
ところで、経済を知る投資家たちが動いたのは「美人投票の原理」ではないかと思うのだけれど・・・(美人投票に関するWikipediaの解説はよく書かれていて、「美人の対極に位置すると投票者の誰もが考える候補に票が集中するという、極端に常識に合わない」ケースもありうる)。
まぁ、今日、マクロ金融政策の若き俊英と会う(たぶん酒を飲む^^)約束をしているので、厳密なところを聞いてみよう。彼も本学卒業生、国立大学大学院を経て、現在は私立大学経済学部准教授。
話がかわって、「リフレ派」というと、この人の話(「俗論を撃つ!)は、さいきん、ちょっとひどい。すでに他所で話題になっている件だけれど、(われら経済学徒にとって^^)格好の反面教師になると思うので、メモしておこう。上のリンクの3ページ下部、単回帰式を3本ならべて、吉川洋「デフレーション」を批判しているくだり。なんでも、この人によると・・・
一人当たり報酬上昇率=0.26+1.45×インフレ率
インフレ率=-2.1+0.62×2年前のマネーストック増加率
という関係があるから、インフレ率と賃上げ率は2年前のマネーストック増加率で決まる。すなわち、「デフレは賃金で決まる」という吉川氏の主張は誤りである、とか・・・。
言うまでもないことだが、こんなに単純な回帰式で、経済変数間の因果関係を語ることはできない。これは、数十年前から、VARやいろんな拡張モデルをベースにしてグレンジャー因果性の検定などがおこなわれてきた主題だが、そうした研究の蓄積をふまえたものとはとうてい思えない。
(蛇足ながら、ボクなんか、この本を手に取ったときに、吉川教授が同じことを考えていたことがうれしくて、とっても安心したものだけれど・・・^^)。